ULTRA-TRAIL Mt.FUJI

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都市環境のように整備されていない自然環境の中には、様々なリスクがあります。舗装されていないトレイルには常に転倒や滑落のリスクがあります。何かあったときに逃げ込めるシェルターもありません。そんな自然環境の中では、私たちはディフェンシブに行動する必要があります。十中八九必要ないかもしれません。それでも残る一つの危険性のために、「それに対応する装備を持って行動すべきだ」、「それが自然の中で遊ぶ基本原則だ」、このように私たちは考えます。

【必携装備を設定する意味】 
 もちろん、一人ひとりスキルも体力も違います。必要な装備も人によって異なるはずです。個人で山に入るなら、自分の判断で装備と行動の基準を持てばよいでしょう。しかし、イベントでは違います。イベントには考え方を異にする多くの人が参加しています。必携装備を設定し、その遵守のための環境を整えることで、参加する皆さんが気持ちよくレースに参加できるよう装備の条件を整えること、これは主催者の役割であり、ルールの機能です。
イベントの楽しみが参加者と主催者の協働作業によって作り上げられるように、安全もまた主催者と参加者の協働作業によって作られるものです。主催者は、参加者が制御可能な程度にまでコースのリスクを予め低減させる責務があります。その中で参加者は、時々刻々変わる自然の兆候を捉えて、自らの安全を守る責務があります。
  今回迂回コースとなった竜ヶ岳南麓では、レース当日未明に降雨がありました。私たちは落石の危険が通常以上にないことを何度も確認しました。その上で、「イヤホンで耳をふさがず、自然の音を聞いてほしい」と参加者の皆さんに求めました。主催者の安全管理だけでは、自然の中のリスクをすべて回避することはできません(できるとすればレースをやらないという選択によってだけです)。一方、皆さんがいくら自然の変化に敏感であっても、突然側面から崩れる落石には対処しきれないでしょう。主催者と参加者の協働行為とはそういう意味なのです。
 
 ルールや必携装備は、リスクを回避する協働行為を成り立たせるための両者の約束です。私たちは皆さんが
 
・通常の状態で自分の身を守れること、
・さらに何かあったときに救助を要請するとともに、
・救助されるまでの一定時間、自分で耐えることができる装備を持っている、
・必携装備を持っていて、それを使いこなすことができる
という前提で、救助体制を構築しています。必携装備を含めたルールがもし破られたとしたら、皆さんの安全はとても危ういものになってしまいます。

【失格にする意味】
 今回、残念ながら装備の不備で20人を超える参加者が失格になりました。その中には個人的には同情したくなる事例もありました。一方、自分の身を守るという点で首をかしげたくなる事例もありました。装備チェックまでは必携装備なしでも無事でいられたのです。でも、装備チェックがなく、その先進んでいたら、致命的な事態になっていたかもしれません。
また、必携装備のない選手がそのままレースを続行することは本人を危険にさらすだけでなく、他の選手を間接的に危険にさらすことにもつながります。 例えば、同時に何人かが怪我をして通常の行動できない場合、それぞれの症状と効率を考慮して救助の段取りをします。その中の一人が雨具を持っていなかった場合、他の選手よりも急速に低体温症に陥る可能性を考慮して優先順位が上ります。本来ならば2時間で救助できる他の怪我人の救助時間を4時間、6時間と延ば してしまうことにもつながるのです。
今回失格の対象となったチェック品目は決して恣意的に、あるいはトリックとして選ばれたものではありません。参加者が自分の安全を守り、そしていざという時に身を守ることができる、そのような基準で選ばれたものです。
 
【今後に向けて】
  20人を超える失格者を出した今、私たちにも反省すべき点が多くあることに気づきました。上記のようなルールと必携装備の意味を参加者と共有できていただろうか。あるいはレースの社会的/個人的意味、そして安全を守る実効性、それらと失格(あるいは1、3、6時間というペナルティー)は適切にバランスが取れていただろうか。
今年、選手の意識やスキルが上っていると実感できることもありました。救護本部にかかってきた電話の会話中、詳細図を見ながら場所を確認していただく場面が何回もありました。去年までは私たちが「詳細図を見てください」と言うと「地図は持っていない」「そもそも地図なんて読めない」と言う選手も多く見受けられましたが、今年は全員が詳細図を出し、しっかりと地図を読むこともでき、話がスムーズに進みました。そのおかげで救護班が効率的に動けました。
  ルールや必携装備、それらの意味を深く考えることは、回避が難しいリスクから身を守ることにつながります。同時に、それはイベントをさらに魅力的で居心地のよいものにします。参加者の皆様にもそんな意識を共有していただきたいと思います。